労災保険とは?労災保険がカバーしてくれる内容をわかりやすく解説

2018.08.05

労災保険とは、正式名称を労働者災害補償保険法といいます。法律名のとおり、労働者の災害を補償するための法律です。本記事では、ベンチャー企業の経営者、管理部門の方が知識として持っておいた方がいい労災保険の内容について解説します。

労災保険(労働者災害補償保険法)とは

法律名のとおり、労働者の災害を補償するための法律です。業務中や通勤中の怪我や病気に対して保険給付を行う制度です。業務中の怪我や病気に対してだけではなく、休業中の賃金補償も行われ、後遺障害が残った場合や死亡した場合にも被災した労働者やその遺族へ保険給付が行われる制度です。

従業員を一人でも雇用する会社は必ず加入し、正社員、パートタイマーなどの雇用形態に関わらず、賃金を受ける全ての人に労災保険が適用されます。労災保険は保険ですので、当然、定期的に保険料を支払わなければなりません。雇用保険と異なり、労災保険料は全額会社が負担します。労災保険料の一部でも労働者に負担させるのは違法行為になります。

労災が認められるケース

労災(業務上災害)と認められるケースと認められないケースがあります。仕事中の怪我だからと言って無条件に労災保険の対象となる訳でありません。

労災として認められるためには、労働者が負傷をしたり、病気になった原因が、「業務上の災害(仕事によって生じたもの)」と認められないといけません。では、「業務上の災害である」かどうかはどのように判断されるのでしょうか。

業務上の災害と認められる場合は、原則的に「業務遂行性」「業務起因性」の要件を満たす必要があります。少々言葉がわかりにくいので以下に解説します。

【労災(業務上災害)と認められる要件①】業務遂行性とは

仕事中又は仕事に付帯する行為中であることをさします。
たとえば

●担当している業務に従事している場合
●休憩中、勤務開始、終了後に業務に従事していないが、会社施設内にいる場合
●会社施設内にはいないが、出張中や、社命により外出しているような場合

などです。

【労災(業務上災害)と認められる要件②】業務起因性とは

業務起因性とは、業務と傷病等に一定の因果関係があることをさします。具体的には負傷、疾病が仕事に起因したものであるかどうか、ということです。例えば、板金加工に従事する労働者の場合は、プレス機で指を挟むことは潜在的なリスクとして常にあることです。調理師が包丁で指を切ること、火傷をすることも、仕事中に起こり得るリスクですので、業務起因性があります。他にも長時間労働を恒常的に行う労働者に於いては、鬱病に罹患すること、心臓疾患、脳血管疾患を患う可能性があると言えます。

労災が認められる具体例

「業務遂行性」「業務起因性」について、ご説明いたしましたが、具体例を記載してみます。

(具体例)
IT企業で営業を担当しているAさんが、上司の指示により取引先への商談に向かう際、会社施設内の階段で足を踏み外して転倒し、負傷したようなケースは業務上災害として認定を受けられる可能性が大きいです。

●Aさんは営業職であり、取引先との商談は日常業務である。
 ⇒ 業務遂行性OK
Aさんは営業として雇用契約を締結しており、上司の指示により営業行為に従事している最中であったといえます。

●会社施設内の階段で足を踏み外して転倒した 
 ⇒ 業務起因性OK
Aさんは会社施設内の移動に階段を用い、日々利用しています。階段を利用する以上、足を踏み外して転倒することは、業務に内包するリスクであるといえます。
   
上記例の場合は、業務遂行性も業務起因性も認められる事案ですので、ほぼ問題なく労災認定されることと思います。

労災保険の支払い・給付金

労働者が業務上、又は通勤途上に於いて、怪我をしてしまうことがあります。私の関与先の製造業でも、プレス機に指を挟んでしまい、身も凍るような大きな事故を起こしたケースもありました。

このように、勤務中に事故が起こってしまった場合には、労災保険が労働者を守ってくれます。以下に労災保険給付の内容をご紹介します。

①療養(補償)給付  
業務上・通勤上の傷病により療養するとき治療費用の給付(現物又は現金給付)がされます。
           
②休業(補償)給付  
業務上・通勤上の傷病の為、労働することができず、その結果賃金を受けることができないとき休業中の賃金補償がされます。

③傷病(補償)給付  
療養開始後1年6ヶ月経過+傷病等級 に該当したとき(治療が継続中であること=症状が固定していないこと)に給付されるものです。

③障害(補償)給付  
傷病が治癒(症状固定)した場合であって、且つ障害等級に該当した場合に給付されます。障害の内容によって給付される金額が変わります。

・障害等級1級~7級  年金給付
・障害等級8級~14級  一時金給付

④介護(補償)給付  
傷病(補償)年金 又は 障害(補償)年金受給者のうち、第1級又は第2級の精神・神経の障害及び胸腹部臓器の障害者であって、現に介護を受けているときに給付されます。

⑤遺族(補償)給付  
業務災害・通勤災害によって死亡した場合、遺族に対し年金を支給(遺族の数によって加算)されます。

⑥葬祭料(葬祭給付) 
業務災害・通勤災害によって死亡した場合に、葬祭を行った場合に一時金が支給されます。

⑦二次健康診断等給付 
会社が行う定期健康診断の結果、下記に該当したときに給付されます。
・血圧、血中脂質、血糖検査、腹囲又はBMIの測定のすべてに於いて異常の所見があると診断された場合
・脳血管疾患又は心臓疾患の症状を有していないと認められること

労災事故が発生した場合の対応

労働者が仕事中又は通勤途上に於いて、事故にあった場合、「業務遂行性」「業務起因性」を確認する為、正確な事実確認が必要です。具体的には、以下の内容を把握する必要があります。

 ① 被災者の氏名
 ② 怪我をした日
 ③ 怪我をした時間
 ④ 怪我の内容
 ⑤ 勤務時間中、残業中、仕事を離れた時間、通勤途上のいずれか
 ⑥ 現場で確認した者がいるか、または事実確認が出来る者の氏名 
 ⑦ 医療機関名、電話番号
 ⑧ 薬は処方されたか(処方箋が交付されたか)
 ⑨ 医師の診断はどうだったのか
 ⑩ 医療費の支払いはどうしたのか(健康保険証使用の有無)
 ⑪ 休業する必要があるか

上記①~⑩については、労災保険の支給申請をする際に確認する内容となりますので、必須な確認事項となります。
 
但し、重大な傷病の場合は、確認は後回しにし、すぐに医療機関を受診させて下さい!
怪我の程度によっては、同僚又は上司が医療機関まで帯同した方が良いでしょう。

労災の認定をするのは誰か

仕事中の負傷、疾病=労災になるとは限りません。先に記載したとおり、「業務遂行性」「業務起因性」を基に、労災認定の可否が決定します。

では、この決定は誰が下すのでしょうか?

労災認定の可否を下すのは、会社でもなければ労働者でもありません。「よく労災事故が起こりました」と会社から連絡を頂くことがありますが、連絡頂いた時点では「仕事中に事故がありました」という事実報告に過ぎません。また労働者から、「労災扱いにして下さい」と言われているとの連絡を受けることもあります。

労災認定を下すのは、あくまで行政(労働基準監督署)となります。事業所を管轄する労働基準監督署が事故の内容等を「業務遂行性」「業務起因性」に照らし、労災か否かの判断を下すのです。

よって、会社が勝手な判断で「労災ではない」と一方的に判断したり、労働者が「これは労災である」と決定するものではありません。この点は非常に誤解を招きやすいポイントですので、注意が必要です。

我々、社労士も日々、仕事中の怪我について報告を頂くことがあります。過去の事例や、経験則からこれは「労災事案として認定されるケース」という予測は立ちますが、最終的な認定を下すのは行政ですので、ご注意下さい。